ベリエ・レコメンド
棚に様々な商品が積み上げられた店内はシーンと静まり返っている。
閑古鳥が鳴くのは今日に限ったことではなく、これがこの店の日常。
入り口の真正面に位置取るレジには気だるげな表情をする男が一人。
髪の毛は短めの金髪、無精ひげが特徴的な男だ。
店内にただ一人存在しているこの男は、閑古鳥が鳴くこの店の店主。
店主がこんな表情をしていればお客も入らないだろう。いや、客が入らないが故にこんな表情なのか。
「は~、相変わらず誰も来ないなこの店は」
虚空を眺めながらのぼやき。
「親父が体調崩したっていうから一時的に手伝いに来ただけのはずだったのに…」
彼が店主を務めるようになってからすでに3年が過ぎようとしていた。
時の流れの残酷さを感じながら店主は誰もいない店内を眺める。
医薬品、本、玩具など統一感のない商品が陳列されている棚の数々。
この店の収益の大半は配送で成り立っているので、実店舗の必要性はあまりない。
それでも店を開け続けているのは店主自身がこの雑多な店が好きだからに他ならない。
『カランカラン』
入口に取り付けている来客を知らせるベルが響く。
「いらっしゃーい」
虚空を漂っていた両目の焦点を入口に向ける店主。
店主の視線の先には誰もいない。
「あれ? 気のせいか?」
確かにベルの音が聞こえたと思ったけど、と頭をかしげていると、
「ねむれる薬ください」
幼い子供の声がレジカウンターのそばから聞こえてきた。
反射的にビクッとする店主だが、すぐに平静を装い、レジカウンターの対面をのぞき込む。
そこには黒髪を肩口まで垂らした少女が立っていた。
年齢でいうと7~8歳くらいだろうか。
あどけない顔に不釣り合いな目の下のクマがとても特徴的な少女である。
ぽけーっと少女を眺めている店主に対して「ねむれる薬、ください」と改めて宣言する少女。
「ああ、眠れる薬ね。えーっと睡眠薬はどこに置いてたかな」
レジを離れ医薬品コーナーへと向かった店主は、ほんの少しだけ棚を漁ると一つの商品を手にレジへと戻ってきた。
「うちにある睡眠薬の中ではこれが一番」
そう言いながら少女の眼前に小瓶を持っていき、軽く振る。
カラカラと錠剤が瓶の中で跳ねる音が聞こえる。
「効き目でいうとこれよりもスゴイのもあるんだけど、副作用とかを考えるとね」
瓶のラベルを眺めながら店主は少女に説明を続ける。
「この商品は、自然由来の成分のみを使用しているので身体に負担をかけない入眠をサポートしてくれます。対象年齢は15歳から…」
ちらりと少女を見る店主。
レジカウンターから頭が出ない身長である少女は15歳を迎えているのか。
まあ、迎えていないことは一目瞭然だった。
身長もだが、顔つきや声など何もかもが幼すぎる。
「どうするか…」と渋い表情をする店主。
流石にこの商品を少女に売るわけにはいかないため、対処法を全力で考える。
「いくらですか?」
少女は首に下げていた小さい財布を開きながら問いかける。
「あ~っと、おじさん持ってくる商品を間違えちゃって、もっとイイやつがあるんだ。ちょっと待っててね」
サッとレジを離れる店主。
まだ対応策を思いついていない店主は睡眠薬を棚に戻しながらゆったりと店内を一周しながら時間を稼ぐ。
そして店主がレジに戻ってきたとき、その手には一つの商品が収まっていた。
「眠るためには古来よりこれが一番とされているんだ」
そう言いながら少女へと商品を手渡す。
少女は渡された商品をギュッと抱えながらジトっとした目で店主を見上げる。
「バカにしてます?」
少女が抱きしめる『それ』はフワフワの毛で覆われた『ひつじのぬいぐるみ』だった。
睡眠薬を買いに来てぬいぐるみを渡されたら怒るのは当然の反応だろう。
「いやいや、バカになんてしていないよ! お嬢ちゃんはぬいぐるみのスゴさにまだ気づいていないだけさ」
ドヤ顔で店主は語り続ける。
「これは僕の実体験に基づく話しなんだけどね、僕も小さいころ眠れないことがあったんだ。学校が大変だとか、友達と喧嘩したとか、明日になって欲しくないなと思うことがあると眠れなくなっちゃってね」
少女はひつじのぬいぐるみを抱きしめながら、店主の語りに耳を傾ける。
「眠れないと次の日も上手くいかなくてさ、悪循環ってやつだよね。そんな僕を見かねて親父がぬいぐるみをくれたんだ。僕のはひつじじゃなくて大きいクジラだったけど」
クジラのぬいぐるみの大きさを両手を広げてジェスチャーする店主。
それを見て「いいなぁ」と呟く少女。
それから店主のぬいぐるみ談義はしばらく続き、二人はすっかり打ち解けた。
「ということで、ぬいぐるみの友達ができるとよく眠れるって話しでした。ご清聴ありがとう」
話しを終えて大仰にお辞儀をする店主にパチパチと拍手を送る少女。
「それで、今日はひつじくんをお持ち帰りでいいかな?」
「うん!」
ようやく年相応な表情を見せた少女に店主は胸を撫で下ろす。
会計を終えて店を出ていくときも少女は笑顔で、ひつじのぬいぐるみを胸に抱きバイバイと手を振っていた。
再び静かになる店内。
店主はふぅと一息ついて充足感を感じながら暇を持て余し始めるのだった。
10年後。
相も変わらず閑古鳥が鳴く店内。
ペラペラと新聞を眺めながら時折「ふわ~っ」と欠伸をする店主はいつも通り暇そうである。
欠伸で涙目になった店主の目に留まった一つの記事。
「『17歳魔導工学生、入眠の新技術確立』か、若いのにスゴイねえ~」
感心しながら記事をめくっていく。
そこへ『カランカラン』とベルの音。
「いらっしゃーい」
入口に目を向けた店主の瞳に映ったのは、肩口まである黒髪が特徴的な女性。
「ぬいぐるみください。大きなクジラのやつ」
ニコッと女性は微笑んだ。
作品設定
作品制作のコンセプトや単語選定方法などのルールは以下ページに記載しています。
プロット
今回の作品は以下の二単語から考えました。
ベリエ | フランス語で「おひつじ座」。 |
レコメンド | 英語で「推薦する」「推奨する」「勧告する」「勧める」という意味。 |
絵と字が下手なのも練習したい、、、。
書き終えてみて
「おひつじ座」と「勧める」という言葉から自分が思いついたのがこの物語でした。
もっと本文中に書いておきたい内容などがあったり、詰めるべき設定などもあるのですが、いざそれを追加しようとすると上手く文章がまとまらなくなってしまい、小説を書くことの難しさを再認識しました、、、。(小説家ってスゴイなー)
思いつきをプロットにまとめるのと、実際に小説にするのとでは天と地の差ですね。
プロットは自分が分かるように設定を書いているだけですが、小説となると「この一文必要なのか?」「これで伝わるのか?」など客観的に考えないといけないですし、客観的視点を持つことの難しさを思い知ります。
この作品も見返してみると、「一人称視点と三人称視点が混ざった感じになってしまっている」「作者の自分しか分からない、明記されていない設定がある」など書いているときには気づけなかった問題があります。
いろいろと考えながら、今後も作品制作をしていければいいなと思います。
そしていずれは、、、。
今後の課題
・地の文の一人称視点、三人称視点をきっちりとする
・設定と描写をブラッシュアップする(少女の不眠症の原因とか)
・ファンタジー感をもっと演出する(この作品設定ならそもそもファンタジーである必要がないというのも問題点。取ってつけたような「魔導工学」とかいうワードだけが謎のファンタジー感)
・キャラクターに名前を付けるべきか否か(お店のやり取りで自己紹介しないだろうということで名前を明確にしていないが、キャラ名がついていないと分かりにくい・愛着がわかない?)